血圧と鍼灸

台風一過青空と共に涼しくなりましたね。いいえ、一気に寒くなりました・・・

鍼灸の臨床の現場でよく聞かれることで「治療を始めてから血圧が下がってきました。」です。患者さんにとって何で??って思いますよね。実は鍼をすると起こる体のメカニズムには血圧が正常値に下げることがわかっています。(低血圧の方が下がることはありません)。すべての高血圧に効くのではありませんが内臓にも影響することがわかります。鍼灸治療ってバランス(ホメオスタシス)を調整してくれる医学なのです。我々は小さい頃から西洋医学の思想しか頭にないので「医療は病気になってから。痛くなったら行く。この症状にはこの薬や処置。」と考えてしまいますが東洋医学はその土台を改善していく医学であるので治療していると結果他もよくなってきたと気づくことが多々あるのです。

最近記事が長くて「せんない」と感じると思います。以下の文章はご興味のある方だけ読んでください。

◎鍼の降圧効果のメカニズム

血圧=心拍出量×末梢血管抵抗

心拍出量=1回拍出量×心拍数

 血圧は、心臓から全身に送られる血液量(心拍出量)と手足や臓器への抹消血管抵抗の積で決定されます。末梢血管が動脈硬化で細くなっていたり、硬くなっていた場合でも栄養は全身に一定量送らなければなりません。ですから動脈硬化が進むほど、圧力を挙げなければ心臓から全身に血液は送られません。

 また、全身の血液量が多ければ多いほど、全身に血液を送る心臓は圧力を高くしなければなりません。したがって血液量は少ない方が心臓への負担は少なくなります。ヒトの血液量は体重の1/13ですので「肥満=体液量が多い」ことになります。他方、ヒトは正常ではPH7.4の弱アルカリ性を保持していますが、塩分の摂取量が多いと血液と細胞内体液を薄めるために水分摂取が必要になり、全身体液量が増加します。この状況では心臓に負担がかかるので、腎臓がナトリウム排泄の為に最大限の努力を続けます。

そこで、塩分控えめが体液量(血液量+細胞組織の水分量)の減少から体重減となり、腎臓に負担をかけないことに連動し、結果として血圧減少となります。

 さて、全身に多くの血液を送る心拍出量は、1回拍出量と心拍数に分けて考えます。1回拍出量が多いことは圧力を上げることになりますが、他方では心拍数を多くして全身への血液量を増やしていきます。この反応は、無意識の内に自律神経機能によって調整されます。したがって、自律神経の交感神経機能が亢進すると心筋機能が亢進し、心拍数が上昇することで高血圧になることがあります。

 心拍数の上昇を抑える薬がβ遮断薬です。血管にも自律神経作用によって収縮したり、弛緩したりします。したがって、末梢血管抵抗も自律神経調節で行われています。

 鍼刺激で高血圧が改善されるのは、鍼刺激が自律神経調節を可能とするためです。 しかし、高血圧になる理由は自律神経調節だけではありません。

1.肥満による体液量の増加

2.腎臓の(塩分)ナトリウム排泄能の低下

3.レニン・アンジオテンシン系の亢進

4.血管収縮物質の増加

5.血管拡張物質の減少

6.血管平滑筋細胞膜におけるナトリウムイオンを細胞内

  外に輸送する役目のトランスポータの異常

 

 血管内皮細胞の機能障害であれば、鍼刺激による改善は可能あると思われます。

 高血圧治療は、単に薬物治療を選択するのでなく、副作用回避のため、食事と運動の改善が第一選択です。美味しいものを食べて、運動しなければ肥満・メタボリックシンドロームになり、身体の様々な場所に異常が生じてきます。わかっちゃいるけど、やめられないのが人情です・・・

 鍼治療は改善の選択の一つです。運動、食事との併用による総合的なアプローチの継続が可能であれば、なお改善に早くなるでしょう。当院の患者さんも10kg痩せ、食事も改善してきました。

 鍼刺激は、自律神経機能改善により高血圧治療に期待できるのです!

 学会発表では(全日本鍼灸学会、日本自律神経学会)症例研究にて、15年間、3剤の服薬を継続していたにもかかわらず、週1回の鍼治療を1年間継続することで服薬半減しても症状良好になった症例報告を致しました。

 9週間でβ遮断薬を終了しても症状良好で、Ca拮抗薬ARBは薬剤の半減にもかかわらず、症状良好を維持しています。と言うことは、鍼の物理刺激が、Ca拮抗薬、ARBと同等な作用を持つ可能性があると言うことです。

 つまり、鍼刺激による細胞間のイオン交換、イオンチャネル、細胞間の神経伝達物質などへの影響が少なからず存在することは確かだと考えられます。現状では、この課題について薬理的実験による解決は出来ていません。